数学の力で遺伝子病の新発見を
~子どもに起きる腎臓の難病「ARPKD」の原因を探る、新しいアプローチ~

●どんな病気?
ARPKD(常染色体劣性多発性嚢胞腎)は、子どもに起こる珍しい遺伝性の腎臓病です。腎臓に小さな袋(嚢胞)がたくさんでき、だんだん腎臓の働きが悪くなってしまいます。この病気は、PKHD1という遺伝子の異常が関係していることがわかっていますが、「なぜ」「どのように」病気が進行するのかは、まだ詳しくはわかっていません。
●何を調べたの?
私たちは、「数学の力」で遺伝子の働きをネットワークのように見える形にし、病気の進み方を読み解こうとしました。
具体的には、患者さんと健康な人の腎臓から得られた遺伝子データを使って、以下のことを調べました:
-
遺伝子同士のつながり方(ネットワーク構造)
-
どの遺伝子が中心的な役割を持っているか
-
健康な状態と病気の状態で、どのグループの遺伝子が活発か・静かか
●わかったことは?
🧩 意外な発見①:主な原因とされる遺伝子PKHD1は、他の遺伝子とのつながりが弱かった
→これは、病気の進行には他にも重要な遺伝子が関わっている可能性を示しています。
🌐 意外な発見②:特定の遺伝子グループ(コミュニティ)が、病気の進行や炎症・修復と関係していた
→たとえば、「Community 5」と呼ばれるグループは、ARPKDの患者さんで特に活発になっており、免疫や細胞の再生に関わる遺伝子が多く含まれていました。
⚠️ 意外な発見③:健康なときに活発な遺伝子グループ「Community 3」は、病気では抑えられていた
→これは、腎臓が本来もっている防御力や安定性が低下している可能性を示しています。

●なぜこの研究が大切なの?
これまでの研究は、ある特定の遺伝子の「量」だけを比べる方法が主でした。しかし今回は、「遺伝子同士の関係性」を数学的に解析する新しい方法で、病気のメカニズムの“つながり”を明らかにしようとしました。
このようなネットワーク解析により、今まで見逃されていた「隠れた重要遺伝子」や「新しい治療のヒント」が見つかる可能性があります。
数学を使った当院の研究










