間質性膀胱炎・膀胱部痛症候群

間質性膀胱炎・膀胱部痛症候群

疾患の特徴 本疾患は、膀胱に尿がたまった際に膀胱痛、時に骨盤痛を引き起こす慢性状態です。痛みは、軽い不快感から激しい痛みまでさまざまです。このため、世界的には痛みを伴う膀胱症候群として知られています。細菌性膀胱炎との大きな違いは、細菌性膀胱炎は尿に細菌がいるので排尿の終わりに尿道から膀胱にかけての痛み(排尿終末時痛)で、間質性膀胱炎は尿に細菌がいなくて膀胱そのものに炎症があるので、膀胱に尿がたまったときの焼けるような痛み(膀胱充満時痛)です。

原因 間質性膀胱炎の契機となる原因は多数あります。しかし、一度膀胱内で炎症が始まると悪化する方向にサイクルが進みます。その例としてCDC(アメリカ疾病対策センター)からわかりやすく悪化サイクルを図にしたものがあります。以下に示します。

〔膀胱粘膜のGAG層が破壊される〕→〔膀胱粘膜のダメージ〕→〔ナトリウムの間質への流入〕→〔Cファイバーの活性化と痛み物質サブスタンスPの上昇〕→〔炎症反応細胞の反応〕→〔膀胱粘膜のGAG層が破壊される〕

膀胱の表面あるGAG層が破壊され間質が炎症をおこして膨れ上がります。すると、自然に亀裂がでてきます。これがハンナ病変と言います

ハンナ病変へは、膀胱内にある様々な因子(カリウム、尿素、バクテリアなど)が間質へ侵入してしまいます。

 

診断 日本では、膀胱水圧拡張による検査・治療で、膀胱内に点状出血や潰瘍が認められると間質性膀胱炎と診断をしますが、米国では必須ではありません。これは、膀胱水圧拡張にて膀胱に穿孔をおこす可能性があるからです。実際に膀胱穿孔を起こす方では、膀胱水圧拡張の前に膀胱悪性腫瘍を疑い膀胱粘膜生検を行うことで膀胱壁に薄い場所を作ってしまい、その上に拡張をしたことが原因とするケースがあります。膀胱水圧拡張が決して安全・低侵襲でないことは重要です。以前用いられていた質問表はハーバード大学オ・リリー教授によるものでしたが、現在はシンプルに10点満点で痛みを確認するようになっています。(NRS11)。日本では、膀胱内に潰瘍の認められるものとそうでないものを区別する方式があります。また膀胱内の潰瘍は胃潰瘍のようなものでなく、間質の炎症で組織が脱落した特殊な構造を持つのでハンナー潰瘍と呼びます。

 

(下図 間質性膀胱炎の内視鏡所見。GAG層の欠損部分は水圧をかけた後、膀胱内の生理食塩水を抜くと出血が認められます)

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治療 痛みが強いため様々な治療がすすめられていますが、誰にでも効果があるような治療法は存在しません。膀胱水圧拡張は、確かに拡張することで尿をためることが可能になりますが、それは3から6か月程度のもので、また拡張が必要になります。このため、再び拡張が必要なのですが、回数を重ねるたびに効果が薄れます。その統計的な効果は30%から50%とみるべきです。米国では、GAG層のもとになるグリコサミノグリカン(GAG)を投与する方法がとられますが、この効果も30%程度で、しかも内服中のみにしか効果がありません。他の治療もありますが、効果がある人、ない人と様々です。膀胱内に薬液(DMSO)を注入して痛みの改善を促したり、ハンナー潰瘍へヤグ・レーザー照射もしくは電気メス凝固治療をすることで組織の発育を図る治療もあります。結局は、組織での神経がいったん感じなくなり痛みが改善しているという印象はぬぐえません。

海外での注目点 間質性膀胱炎の治療での注目点は大きく(1)飲み薬(2)外科手術です。(1)の領域では、数種類の薬が検討されていますが、炎症のもとになる炎症反応細胞マウロファージを抑えるSHIP1の活性化という点の薬は、試験中の段階です。(2)の領域では、レーザー治療は効果を示した例があります。

 

当院での倫理委員会承認の治療 当院では国の基準を満たす倫理員会により治療方法の後ろ向き解析をしております。その治療は、ヤグ・レーザー治療です。ヤグ・レーザー照射は、細胞の活性化を進める能力が高く、すでに論文が出ているものですが、当院はそのレーザーをさらに微弱にして使用しております。当院の治療は、すでに国際雑誌にて査読をうけて論文として報告されています。また、当院ではGAGのもとになるサプリメントを勧めています。これはサプリメントとして承認されたものです。これらに関しては、患者様と直接お会いした時に説明をいたします。

 

過去の根拠になる論文

Treatment of Interstitial Cystitis with the Neodymium YAG Laser: A Swedish View

Update on the Pathophysiology of Interstitial Cystitis /Bladder Pain Syndrome

USE OF THE NEODYMIUM: YAG LASER FOR INTERSTITIAL CYSTITIS: A PROSPECTIVE STUDY

 

間質性膀胱炎・膀胱部痛症候群のまとめ → こちらの画像をクリック

 

当院の間質性膀胱炎の論文

過去の考え方の応用なのですが、膣からのレーザー照射により組織の育成を促し、これにより血流が復活して、間質性膀胱炎の作る老廃物組織を回収するというものです。

この考え方は、上記のような過去のデータから発展したものです。2021年にはレーザー治療の教科書に載ることになりました。

詳しく知りたい方は、以下の研究室のホームページをみてください。

間質性膀胱炎の膣健康状態に関する研究

当院で、積極的に取り組んでいる治療(倫理委員会あり)

(1)レーザー治療(もしくは電気凝固)にてハンナ病変を直接治療する方法

(2)膣よりレーザーを照射して、泌尿器・性器をまとめて治療する方法

(3)ICの一番痛い部分への過活動膀胱治療薬を注射することで、痛みを緩和する方法

などを検討しております。

このほかに保険適応の治療で、膀胱内に治療薬を投与する方法、膀胱を水圧で拡張する方法などがあり、それらも当院で取り組んでおります

YouTube チャンネルから

現在わかっている間質性膀胱炎のメカニズムを、マンガのみで解説しました

新しい考え方で、間質性膀胱炎の痛みの原因を膀胱だけと考えず、膣にも相互作用があるとするものです。
取り上げる論文は、以下の二つです。

① Amit Agrawal Sexual dysfunction in women with interstitial cystitis/bladder pain syndrome: A case-control study Indian J Urol. 2020 Jul-Sep; 36(3): 212–215.
Published online 2020 Jul 1. doi: 10.4103/iju.IJU_145_20

② Nobuo Okui Effects of non-ablative vaginal erbium:YAG laser treatment for interstitial cystitis/bladder pain syndrome: a case series (UNICORN-2 study)
Climacteric. 2020;23(sup1):S14-S17. doi: 10.1080/13697137.2019.1703940. (当院の論文です)

 

 

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