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マラソン中の突然死

1.    マラソン競技中の突然死

マラソンのレース中に急死するという事故増えています。1992年〜2011年8月までの間に開催された国内のマラソン大会で、127名のランナーに心臓が止まってしまうという事故が起きており、楽しいはずのレジャーが命を失うことになるのは、大変残念なことです。多くの場合、死因は「急性心筋梗塞」です。

そこで、みなさんにわかっていただけるように、マラソン中の突然死について解説します。

2.    あるランナーについて解説してみます

以前、福知山マラソンでおなくなりになった男性の例をあげてみます。50代の男性で、マラソン歴20年。健診では異常がなかったそうです。日頃からスポーツが好きで、週2回走っていました。喫煙の習慣はありませんでした。体型も若いときと変わりませんでした。

当日の気象は「曇り、気温7℃、湿度71%」正午には14℃に上昇しました。コースはほぼ平坦。大会には医師が3名、そして救護士も配置れていました。

3.    参加前の睡眠時間などは大きくストレスになります

この男性の場合は、フルマラソンの参加頻度がおおく、9月から毎月連続して参加しています。走っている方には、おわかりと思いますが、フルマラソン大会は練習とは異なるストレスがかかります。また、大会の前日おそくまで仕事をしていて、睡眠が十分にとれていませんでした。
スタート前に、「走り始めると胸が痛むことがある」と他のランナー話していたらしいのですが、これは重大なサインであったとおもいます。胸に痛みを感じるときは、それは心臓への虚血を意味します。痛みは、心臓へおくる血管の流れがわるくなり、そのために、細胞に血がいかないことで、すこしでも細胞が死にそうになるとおこります。決して、スポーツをしてはいけない症状です。
ところが、35キロ付近で足に痛みが出て、「38キロまでいったらストレッチしよう」とまわりのランナーに話しかけてたそうです。これは、37.3キロ地点に関門(4時間20分以内)があって、あわててスピードを上げたためとおもいます。
突然倒れたのは、関門直後の37.8キロ地点で、そのとき心肺停止の状態であったそうです。

4.    心臓の働きは限界があります

心臓は、安定したカロリーを必要とします。運動のしすぎは、心臓へ栄養の供給がされなくなり、心不全をおこします。決して、高度の肥満ではないから、とか、日ごろから運動しているから、では予測できない事態です。
ウオーミングアップをすると心臓に一時的に血流がよくなり、心臓がすでにストレスで疲労していることを忘れてしまいます。しかし、走る前に、位置もと違えば、フルマラソンをするには、リスクが高くなっています。

体力の限界を感じたら、途中棄権する勇気は、医師からみると大変立派な行為です。いままで、練習をしてきて、その大会には思い入れがあるでしょうが、それを、ふりきり、家族のために、棄権することは、なかなかできないのです。

5.    ハーバード大学の研究では、意外と少ないが。しかし注意のキーワードは?

一般市民が参加するフルマラソンやハーフマラソンなどの長距離レース中の心停止の発生率は、参加者10万人当たり0.54であることや、そのうち7割が死亡。「男性」「フルマラソン」がハイリスクで、死因として最も多いのは肥大型心筋症。生存の予測因子は目撃者による心肺蘇生開始―。そんなデータが、米Harvard大学医学部のJonathan H. Kim氏らが行ったRACER研究で得られ、NEJM誌2012年1月12日号に発表されました。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1106468?query=featured_home

その内容を説明します。
Baggish氏らは,米国で2000年1月1日〜10年5月31日に開催されたフルマラソンおよびハーフマラソン大会中(競技中もしくはゴール後1時間以内)に発生した参加者の心停止発生例とその転帰について評価を行いました。無意識かつ無呼吸状態を「心停止」と定義付け,サバイバーもしくは死亡者の最親近者への面接,カルテおよび検死データから各発生例の臨床的特徴について検討です。
対象期間中に開催されたフルマラソンおよびハーフマラソン大会の延べ参加者数は1,090万人。
そのうち59例(フルマラソン40例,ハーフマラソン19例)で心停止が発生(平均年齢は42歳,男性51例)。参加者10万人当たりの心停止発生率を求めたところ,0.54(95%CI 0.41〜0.70)です。フルマラソンとハーフマラソンを比較した結果,10万人当たりの心停止発生率はフルマラソン〔1.01(同0.72〜1.38)〕がハーフマラソン〔0.27(同0.17〜0.43)〕の約4倍有意に高く,男女別では,男性〔0.90(同0.67〜1.18)〕が女性〔0.16(同0.07〜0.31)〕の5倍以上有意に高い(いずれもP<0.001)。男性のみで検討したところ,10万人当たりの発生率は1.41(同0.98〜1.98),対象期間別では前半〔2000〜04年;0.71(同0.31〜1.40)〕より後半〔2005〜10年;2.03(同1.33〜2.98)〕の方が男性の心停止発生率は有意に高いことが認められました(P=0.01)。

ポイント:心停止例における死亡率は71%
一方,心停止による死亡例は,心停止発生59例中42例(71.2%)で認められました。参加者10万人当たりの死亡率は0.39(95%CI 0.28〜0.52)。フルマラソンとハーフマラソンを比較したところ,心停止死亡率はフルマラソン〔0.63(同0.41〜0.93)〕がハーフマラソン〔0.25(同0.14〜0.39)〕に比べ2倍以上有意に高いのです(P=0.003)。
さらに,心停止発生59例のうち完全な臨床データが集計できた31例について,死因および蘇生因子を検討。31例中の死亡例は23例あり,死因の内訳は,肥大型心筋症(8例)および同症の疑い(7例)が過半数を占めました加えて,これら15例中9例の死因として,閉塞性冠動脈性疾患(3例),心筋炎(2例),大動脈二尖弁もしくは冠動脈奇形(2例),房室結節副伝導路(1例),異常高熱(1例)が追加記載されていました。

蘇生については,心肺蘇生(CPR)および肥大型心筋症以外の基礎的診断が最も強い蘇生因子として有意差がありました(いずれもP=0.01)。

今回の結果から,Baggish氏らは
フルマラソンおよびハーフマラソンの大会中の心停止リスクは極めて低い
71%という死亡率も,日常生活における心停止による死亡率が92%というデータと比較して極めて低い
◎男性参加者においては心停止発生率が高く,最近5年の絶対リスクが上昇している点には要注意。
◎医療者に対し,肥大型心筋症や動脈硬化症の患者には特に注意すべき
 



6.    マラソンの最中に起こりやすい病気をしっておくことが大切

では、マラソンの最中におこる生命の危険のあるものには、どんなものがあるのでしょうか?
東京マラソン財団は、東京都医師会との調査で、以下のような病気をあげています。

マラソンランナーに多い怪我・病気の症状

1.足の筋肉痛・関節痛
2.靴ずれ、転倒、まめなどの擦り傷(皮膚の怪我)
3.低体温
4.脱水症状
5.心肺停止

このうち、生命に危険のあるのは、低体温・脱水・心肺停止です
1) 低体温
マラソンは、天候にとても左右されやすいスポーツです。天気や、気温、湿度などの、環境によって起こる病気が熱中症や低体温症です。直前の天気予報をしっかりとチェックし、気温による体調不良を起こさないように体温管理をしっかりすることが大切です。高山などでの低体温症と、マラソンのときは明らかにちがいますので、以下マラソンに応用できる知識のみをあげましょう。
● とりあえずどんな方法でもよいので体を温めるようにして、暖かい甘い飲み物をゆっくり摂取すること。暖かい温度と、グルコースを摂取することなのです。
● 手足を動かして温めようとしても、心臓への負荷がかかります。あたたかいものに、体をくるめて、おちついて、安静にします
● アルコールは禁止です
● マラソン中は、手足の筋肉は大変疲労しており、血液中にカリウムが上昇した状態です。運動をさせてしまうと、そのカリウムが心臓に還流され、心房細動になります。すると、脳への血液がながれなくなり、意識がさがります。心停止する大変危険な行為です
● 軽傷の場合は、本人にも温めたいという意識がありますが、中程度の低体温では意識レベルがさがりますので、『大丈夫です』といってしまうことがあります。でも、それは、鵜呑みにしてはいけません。
● 電解質のナトリウムが極端にさがると、低ナトリウムになります。生あくび、全身の発汗、意識レベルの低下、そして、吐き気などがおこります。低体温とあわせて出現する場合があります。とりあえずは、低体温を治療しつつ、病院で電解質を含んだ点滴を必要とします。もちろん、ある程度の意識がしっかりしていれば、塩分とグルコースを摂取することはすすめられます。

意外なポイント:マラソン終了後に低体温になることがあります。マラソンがおわったら、十分水分をとり、ストレッチをして、着替えてから帰路についてください。列車やバスのクーラーでおこる危険があるのです。

2)脱水症状
給水がうまくいかずに起こるのが脱水症状です。吐き気・嘔吐、めまい、頭痛といった症状が現れます。水分の取り過ぎもよくありませんが、寒くて汗をあまりかかないからといって水分を取らないと冬でも脱水状態をおこすことになります。
軽度の場合は、電解質を口で、とるようにします。急ぎ電解質を治す場合は、スポーツドリンクではうすいので、塩分を含んだ電解質飴が役に立ちます。その後、ナトリウムが体で安定すると、頭痛や消化器症状がおさまりますので、今度は、塩分の摂取のしすぎによる血圧の変動にたえられるように、水分をすこしずつ、そして、ながく、交互にとってください。

実は、みそ汁は血液と同じレベルの塩分をふくみます。もちろん、普段みそ汁をたくさんのんでいては、高血圧になりますが、マラソン直後の低ナトリウムの場合はおすすめです。

3)心停止
マラソン中の病気で最も恐いのは、心臓が突然止まってしまう『心停止』です。東京マラソンでは応急手当を受けたランナーのうち、約1%がこの心停止だったそうです。この状態ではできるだけ早く胸骨圧迫(心臓マッサージ)や人工呼吸、AEDによる電気ショックが必要になります。

AEDについて使い方をマスターしておくと、大切な友人をあもることができます。



これは、僕の書いた、AEDマンガです。マンガをクイックすると、本編になります。一度よんでみてください。

7.    マラソン中に、ドクターランナーに遠慮なく質問すればいい

心臓がどきどきするとか、呼吸ができなくなったとか、いままでにない異変を感じたら遠慮なく、ドクターに質問するのがいいです。



長野マラソンでは、⇒のようなワッペンが、ドクターランナーでした。
こんなふうに、目立つしるしをつけて走っています。




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奥井識仁のコラム

奥井 識仁

  • 外科医。医学博士
  • 日本医師会・健康スポーツ医単位修得
  • ダイバーズドクター

水泳・マラソン・筋トレーンングがんばっているよ。

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